相続の欠格

Contents
  • 1 相続の欠格・廃除とは
  • 2 相続欠格の要件
  • 3 相続の欠格の効果
  • (1)取るべき手続があるのか
  • (2)遺贈や遺留分を受け取ることはできるのか
  • (3)相続欠格で裁判になる場合とは
  • (4)相続欠格と代襲相続
  • (5)まとめ
  • 4 相続欠格と廃除の違い
  • (1)相続廃除とは
  • (2)相続廃除との違い
  • 5 まとめ

1 相続の欠格・廃除とは

民法で法定相続人だと決められている人たちでも、被相続人(亡くなった人)に危害を加えていた時や、遺言書を偽造した時などは、法定相続人から除外される場合があります。
除外される場合には、“相続の欠格”、“相続人の廃除”の2パターンがあります。

ではどういった場合に、法定相続人から外されることになるのでしょうか。
また、相続の欠格と廃除にはどういった違いがあるのでしょうか。

本ページでは、相続に強い弁護士が、要件と具体的なパターン、欠格と廃除の違いについて解説していきます。
他にも、相続人から外された後にも遺留分侵害請求がなされることはあるのか、相続人から除外された人に子供がいた場合、代襲相続は発生するのかという点についても説明します。

一部の親族が被相続人に対してひどいことをしていたことが発覚したのでその親族に遺産を渡したくないと考えている、親族間で揉めないためにはどういったことに気をつければいいのかを知りたい方々は、ご一読ください。

なお、法定相続人や推定相続人の範囲や順序については下記ページで解説しておりますので、ご参考いただければと思います。
相続人の順位や法定相続分

また、遺留分侵害と代襲相続については下記のページでの解説となります。
遺留分侵害額請求権とは?

2 相続の欠格の要件

相続の欠格の要件は、民法891条に書かれています。

ざっくりと説明すると、法定相続人が不当に遺産を受け取ろうとしたときには、その相続人の相続権を剥奪する、というルールとなっています。

具体的な要件は次のとおりです。実際に問題になりやすいのは、⑤の遺言書に関するものです。

民法891条(相続人の欠格)
次に掲げる者は、相続人となることができない。
①故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
②被相続人が殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
③詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
④詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
⑤相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

①は、被相続人本人を殺害しようとした場合や、自分よりも相続順位が優先/同じ順位の人を殺害しようとした場合に当てはまります。
妻の遺産を手に入れようとした夫が、妻本人を殺害した場合、夫は妻の相続人になることができないということになります。
ただ、過失で死亡させてしまった場合や、正当防衛が認められて刑事罰を受けない時は、この要件には該当しません。

②は、被相続人が、誰かに殺害されたことを知っていながら、法定相続人がその殺害者をかばっていた場合があてはまります。

③から⑤までは遺言の作成に関するものになります。
遺言を作成するときに、不当な干渉をして被相続人の相続に関する意思をゆがめた時には、相続人の資格を失うことがある、ということを決めている条文です。

つまり、③は、被相続人が遺言書を作ったあと、その取消しや変更を考えているときに、詐欺や強迫することで変更などを妨害するときが当てはまります。

④は、詐欺や強迫によって、遺言をさせた場合にも相続権がなくなることを決めているものです。
被相続人を騙して遺言書を書かせたり、無理やり脅して遺言書を書かせていたことがわかったときに問題となる条文です。

⑤は、遺言書をわざと破棄したり、偽造したり、隠したりするときに当てはまります。
なお、条文には書かれていませんが、この要件に当てはまるのは、“相続に関して不当な利益を得ることを目的とした”場合だけとなります。

この“不当な利益を得る”要件については、最高裁の判例が出ています。
最高際平成9年1月28日
相続人が被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した行為が相続に関して不当な利益を目的とするものではなかったときは、右相続人は本条五号所定の相続欠格者に当たらない。

そのため、自分に不利な遺言書だと思ってわざと捨てた時は⑤によって相続人の資格を失います。
うっかり捨ててしまった場合や、預かっていたのを忘れて結果的に隠していることになった場合には該当しません。

以上が、相続の欠格の要件になります。

3 相続の欠格の効果

(1)取るべき手続があるのか

では、891条に該当した人は、どのようにして相続人としての立場を失うのでしょうか。

ここからは、被相続人である父親の相続を邪魔するために、息子が父親の遺言書をわざと捨てたケースで考えてみたいと思います。

遺言書を破る相続人

まず、息子は891条5号に当てはまるので、相続人となることはできません。
なぜなら、民法上の相続の欠格要件に当てはまった場合は、相続人は法律上当然に相続する権利を失う、とされているからです。

そのため、他の相続人がとるべき手続はありません。
裁判所への申立てなども必要ないのです。
息子は、強制的に相続人としての権利を失うことになるためです。

後ほど詳しく解説しますが、“相続欠格”は、強制的に、当然に相続人としての立場から外れる、という点が“相続人の廃除“と大きく変わるところになります。
相続人の廃除は、被相続人の意思で、法定相続人から外すことができる、という制度だからです。

(2)遺贈や遺留分を受け取ることはできるのか

また、相続欠格に該当すると、遺贈も受けることもできなくなります(民法965条)。
先ほどのケースを見てみると、例え父親の遺言書に息子に対して財産を贈与する、と書かれていても、息子はその財産を受け取ることはできません。

それから、法定相続人でなくなると言うことは遺留分もなくなるということですので、遺留分侵害請求もすることができなくなります。
なお、遺留分については下記ページをご参照ください。
遺留分侵害額請求権とは?

こういった相続欠格の効果は、欠格者が①~⑤のそれぞれに該当する行為を行った時から発生します。
実は遺言書を捨てていたということが後から発覚した場合、発覚した時からではなくて捨てた時から当然に相続人から外れるという取扱いになるのです。
先ほどの例ですと、息子は遺言書をわざと捨てた時から相続人から外れることになります。

(3)相続欠格で裁判になる場合とは

このように相続欠格がある場合、何らかの手続を取る必要はありません。

ただ、注意しなければいけないのは、相続欠格であることが戸籍に記載されないという点です。

これは、例えば、不動産の名義を変更するときなどに問題になります。
つまり、法定相続人全員でするべき手続があるときは、相続人全員分の戸籍を提出することになるのですが、戸籍だけを見ても相続欠格者かどうかは分からないのです。
そのため、法定相続人の中に欠格者がいることを証明することができず、相続人全員が揃っているかどうか分からないから手続ができない、と手続機関から言われてしまう時があるのです。

こういったときは、欠格者本人に「相続欠格証明書」を書いてもらわなければなりません。

もし書くことを拒否された場合は、他の相続人が“相続権不存在確認訴訟”という訴訟を起こさなければいけないことになってしまいます。
つまり、他の相続人が、裁判所に訴訟を提起して、”相続人の中には相続欠格の人がいます”という内容の確定判決を取得する必要があるのです。

訴訟を起こさなければならないとなると、証拠を集めたり、主張書面を書いたりしなければなりません。

こういう法律的な紛争になった場合は、どれくらいの証拠があるのか、や、他の相続人とどう連携していくかという点について確認する必要がありますので、まず弁護士に相談することをおすすめしています。

(4)相続欠格と代襲相続

では次に、上の例で、遺言書をわざと捨てた息子に、更に娘(被相続人からみると孫)がいた場合はどうなるのでしょうか。

遺言書を破棄したため、相続欠格に該当した長男への相続分はどうなる?

まず、孫は普通は、法定相続人にはあたりません。
ただし、父親(被相続人)よりも先に息子が亡くなっていた場合は、息子の地位を孫が引き継ぐことになり、孫が法定相続人となるのです。

これを代襲相続と言います(民法887条2項)。

今回のように、息子が相続の欠格に該当したとき、息子本人は相続人から外れることになります。
しかし、だからといって孫が法定相続人になれないわけではありません。
相続欠格は、本来法律上決められている相続権を奪う、という制度ですが、その対象となるのは、不当に遺産をもらおうとした本人だけになるのです。

そのため、父親よりも先に息子が亡くなっていた場合、その娘である孫は、法定相続人になることができます。
このことは民法にも定められています(民法887条3項)。

孫(長男の娘が、長男を代襲して相続人となります。

(5)まとめ

相続欠格という制度についてまとめると次のようになります。

  • 相続欠格は、民法に規定のある欠格事由に該当した時に発生する
  • 強制的に相続人から外れることになる
  • 遺贈や遺留分も認められない
  • 相続欠格の効果は本人だけに発生し、代襲相続には影響しない

4 相続欠格と廃除の違い

相続欠格とよく似た制度に相続の廃除というものがあります。
どういった制度で、どういった違いがあるのか説明していきたいと思います。

なお、相続の廃除については、下記ページで解説していますので、詳しく知りたい方はご参照ください。

(1)相続廃除とは

相続の廃除は、民法892条以下で決められています。

民法892条(推定相続人の廃除)
遺留分を有する推定相続人が、
①被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに
②重大な侮辱を加えたとき、又は
③推定相続人にその他の著しい非行があったときは、
被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる

まず、相続欠格とは違い、相続の廃除は、被相続人の意思によって、相続人を外すことができるというものになります。

つまり、①~③に当てはまるような酷いことを推定相続人(被相続人が亡くなった後は法定相続人となる人)がしていた場合に、自分の財産を相続することが無いように相続人から外したい、という手続きになります。

相続欠格とは違って、被相続人が希望した時に、対象となる人を相続人から外すことになります。
そのため、家庭裁判所に廃除の申立てをして、これを認めてもらう必要があるのです。
なお、実際に、家庭裁判所での申立てが認められる確率は15%から20%程度だと言われています。
具体的な基準は、相続廃除のページで解説しておりますのでご参照ください。

(2)相続廃除との違い

相続廃除との違いには次のようなものがあります。

項目 相続廃除 相続欠格
①手続方法 本人・遺言執行者が家庭裁判所へ申し立てる 不要
②遺留分 無くなる 無くなる
③遺贈 できる できない
④取消し できる できない
⑤戸籍の記載 あり なし
⑥代襲相続 する する
① 手続き方法

相続欠格では、上で解説したように、特に手続することはありません。
民法に書かれている条件に当てはまれば欠格となるからです。

相続廃除では、家庭裁判所に本人が生きている間に申し立てるか、遺言書に書いておく必要があります。
遺言書に書いておく場合は、遺言執行者が申し立てをする必要があります。
そのため遺言書には、相続廃除したいということと一緒に、遺言執行者を誰にするかということも書いておくべきです。
遺言執行者の役割については、下記ページでの解説になります。
遺言執行者を付けるべき場合はどういう時?遺言執行者とは何かわかりやすく解説。

② 対象者

相続欠格は、法定相続人であれば兄弟姉妹も対象になります。

一方、相続廃除は、遺留分のある推定相続人が対象がなっています。
これには、配偶者、両親、子供や孫が当てはまります。
しかし、そもそも遺留分がない兄弟姉妹を廃除することはできません。

③ 遺留分

遺留分はどちらの手続でも無くなります。

法律上最低保障されている遺産の取り分である遺留分ですが、相続欠格も、相続廃除も、本来なら家族が受け取れるはずの遺留分を無くすという制度になっているからです。

④ 遺贈

相続欠格の場合は、受け取ることができません。
遺贈とは、遺言で財産を贈与することをいいますが、欠格の場合、遺贈を受け取る権利もなくなるためです。

一方、相続廃除では大丈夫です。
相続廃除は、本人の意思で、相続人から外す手続になるため、一度相続廃除をしたとしても、そのあと気が変わった場合は、遺贈を行うことができるのです。

⑤ 取消し

相続欠格は、民法で決められていることなので取り消すことはできません。

一方、相続廃除は本人の意思によるものですから、その後気が変わったり、関係性が変わった場合は取り消すことができます。

この場合、家庭裁判所に“相続廃除の審判の取消し”という手続を申立てます。
また、遺言で取消したいことを書いておくという方法もあります。

⑥ 戸籍への記載

相続欠格は、戸籍に記載されません。そのため、相続人全員の戸籍がいる時は、証明書を本人に書いてもらう必要があります。
本人が証明書を書いてくれないときは、裁判所に訴訟を提起することとなります。
訴訟できちんとした主張をして、判決を取る必要があるのです。
ほかにも、本人が相続欠格に当たらないと主張しているときは、裁判沙汰になってしまうときがあります。

相続廃除は、家庭裁判所での手続きを経たあと、戸籍に記載されます。

相続排除について戸籍への記載例

⑦ 代襲相続

代襲相続はどちらの手続でも起こります。

5 まとめ

相続の欠格はあまり頻繁に起こる問題ではありませんが、実際に発生すると大きな影響を及ぼすものです。
親族が無理やり遺言書を書かせていたことが分かった時や、あるはずの遺言書が見当たらないときなど、相続欠格について不安に思っている方はお気軽に弁護士にお問い合わせください。

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この記事を書いた弁護士 弁護士鈴木志野 この記事を書いた弁護士
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