第1 相続人の預金の使い込み・預金の相続人による引き出し
1 相続財産が全然残っていない。
被相続人の死亡前や死亡後に、相続人の一人が預金を使い込み・または引き出してしまって、全然預金がないなんてことがよくあります。
だいたいが、介護を担っていた相続人の一人が、親の預金などを預かっており、死亡までに引き出している事が多いです。
また被相続人の口座は亡くなってしばらくすると凍結されますので、葬儀費用などのために死亡直前に引き出すということが良くあります。
相続財産に預金がないとなると相続開始から10か月以内に相続税が支払えなくなるなどの不利益があり、また、土地建物などの不動産は分けにくいことや、預金を引き出した相続人への他の相続人の不信感も募り、その後の遺産分割でもめることの原因となります。
2 引き出した預金の調査・使途不明金はどうすれば分かる?
(1)被相続人の預金の取引履歴の開示請求
被相続人の預金が引き出されいている事に気が付いたら、まずは、被相続人が利用していた銀行に取引履歴の開示請求をします。
相続人自身の戸籍と、亡くなられた被相続人の出生から死亡までの戸籍の写しをもって、利用していた銀行の支店かまたは本店で開示請求に必要な書類を記載して、開示してもらいます。
手数料を要求される事もありますが、取得する価値はあります。
なお、近似、沖縄県で、「弁護士に依頼するか、相続人全員の同意がないと開示しない」と方針を変えた金融機関があるとの話を聞きました。そのような場合には弁護士にご相談ください。
預金者の共同相続人の一人は、他の共同相続人全員の同意がなくても、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる。(最判平成21年1月22日)
弁護士は金融機関が開示を拒んだ場合は、弁護士会23条照会の手続を通じて、取引履歴を取り寄せます。
そのうえで、不審な取引履歴、多額の引出しをチェックし、これらが誰によって行われたかを、払戻書を開示請求して、筆跡などをチェックします。
また、ATMの引出しの場合、取引履歴の横に支店番号などが記載されていることから、これが被相続人の活動範囲内であるかどうか、入院中などではないか、などをチェックし、誰によって引き出されたのかを調べます。
3 遺産分割調停での話し合いに持ち込むべきかどうか
遺産分割調停では、引き出された預金の取り返しについては、原則として判断しません。遺産分割の対象となるのは、現存している遺産のみですが、使途不明金の場合、どこかに動かされて存在していないからです。一応、使途不明金の額や、引き出し行為が特定している場合には、遺産分割調停での話し合いの前提に入れてくれることがありますが、相手方が素直に認めてくれない場合には、それ以上は遺産分割調停では話し合うことが出来ず、別途裁判手続きを起こす必要があります。
その場合には、不当利得、不法行為による取り返しとなります。
4 使途不明金の裁判手続き
死亡前の預金の引き出しは被相続人に対する不法行為ないし不当利得を構成し、この不当利得返還請求や損害賠償請求を相続人が相続持ち分に応じて取得したという法的構成になります。
これに対し、被相続人死亡後の預金は、(2016年12月現在の判例下では)当然に分割されて、被相続人それぞれの相続分に応じたものになりますから、これを引き出す行為は不法行為・不当利得を構成します。
被相続人の生前の預金や不動産の存在がわからない、預金が使い込まれているかもしれない、といった場合には、弁護士に是非ご相談ください。
遺産の調査をし、使い込まれた預金を取り返します。