相続財産の調査方法

相続は、被相続人の死亡によって始まります(民法882条)。
それでは、親族の所在や被相続人の財産が分からないまま、被相続人が死亡してしまった場合、どのようにして他の相続人の存在や、相続財産を調べることができるのでしょうか。

相続人調査や財産調査は、以下で述べるように、相続放棄の判断のために必要なものですし、ほかにも、遺産分割を行う前提となり、相続税申告をする際にも必要となってきます。

特に財産調査は重要です。
「3 財産を調べる」で解説していますが、故人に借金があり、これがプラスの相続財産を上回っているような場合には、速やかに相続放棄の手続きを取る必要があるためです。

ほかにも、例えば、相続調査を正確に出来ていないまま遺産分割を行ってしまうと、それは正確な分割とは言えませんから、再度やり直さないといけない事となります。
また、財産総額が一定額を超えると、相続税の申告が必要となるのですが、こちらも財産が把握できていなければ正しい判断ができないこととなります。また、申告後に新たに財産が発覚した場合は、過少申告加算税に延滞税も加算される恐れもあるのです。
こういった事態を防ぐためにも、正確な財産調査を行うべきだといえます。

以下では、弁護士が、相続人や相続財産のさまざまな調査方法について解説していきます。

1 相続人を調べる

まず、被相続人の財産を相続する人が何人いて、どういった関係なのか、という点について調査を行います。

法律で定める相続人(法定相続人といいます)は、民法で定められています。
故人に配偶者や子供がいる場合はもちろん、場合によっては故人の親や兄弟姉妹が法定相続人となることもあります。

そのため、まずは相続人と血のつながりがある人を探し出すところから始まります。
具体的には、被相続人が生まれてから死ぬまでの全ての戸籍を市役所で取得します(原戸籍・改正原戸籍・除籍などです)。
そうすると、相続人の範囲を正確に調べることが出来るのです。
ここで取得した戸籍については、その後の相続税の申告や銀行での預金の調査などにも使いますし、弁護士に調停を依頼されるときにもこういった戸籍があると話が非常にスムーズに進みます。
そのため、なるべく早く取得することが重要です。
相続イメージ図

2 遺言書を探す

次に、生前に被相続人が遺言書を作成していないかどうかを調査します。

よく使われるものとして、公正証書遺言、自筆証書遺言の2つがあります。
なお、各遺言書の解説については、下記ページで解説しておりますのでご覧ください。
関連記事:遺言書の種類を弁護士が解説

公正証書遺言は、公証役場で作成手続を行う遺言となります。そのため、生前被相続人が公正証書遺言を作っている場合には、公証役場へ行って取得することが出来ます。
そして、そもそも、遺言があるかどうかという点についても、遺言検索システムというもので全国の公証役場において作られた公正証書遺言のデーターが一元的に保存されていますから、これにより遺言の有無を調べることができます。
なお、この検索をする際にも戸籍が必要となってきます。

一方、自筆証書遺言は自分自身で作成することができるものです。
そのため、自宅で保管されていたり、誰かに託されていたりするケースが多いです。
自筆証書遺言が出てきた場合は、家庭裁判所に遅滞なく提出する必要があります。
「遺言の検認」といって、遺言書の変造や偽造を防止する手続を取る必要があるためです。
この手続には通常一カ月程度かかりますが、相続放棄期間は3ヶ月、相続税の申告期間は10ヶ月となっていますので、検認手続は早めに行うことが肝心です。
また、様々な手続きが進んだのちに、自筆証書があとから出てくるともめる原因になりますから、自筆証書遺言を生前被相続人から託された方にはその存在を早めに他の相続人などに報告することをお勧めしています。
なお、近年の法律改正により、自筆証書遺言も、法務局で保管されている場合があります。この場合、相続人などが法務局に、遺言書情報証明書の交付を求めたり、遺言書の閲覧申請などをすることができます。

3 財産を調べる

相続財産が常にプラスであるとは限りません。
そのため、プラスの財産のみならず、借金などのマイナスの財産を調べる必要があります。
よくあるプラスの財産とマイナスの財産を一覧表にまとめています。
遺産不動産
プラスの財産の例

財産の種類 代表的な財産の内容
 現預金 現金・普通預金・定期預金
不動産 自宅、店舗、山林
有価証券 株式
不動産上の権利 借家権・借地権
家庭用財産 車、家具、骨董品、宝石、絵画
知的財産権 特許権・著作権
その他債権 被相続人が受取人の生命保険金請求権

 
 
マイナスの財産の例

財産の種類 代表的な財産の内容
借金 ローン、借入
預り金 敷金、保証金
保証債務 被相続人が誰かの保証人になっていた場合
その他債務 医療費や水道光熱費、税金、家賃、などの未払のもの

  

ここで、相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月の熟慮期間内に,単純承認,限定承認又は相続放棄をしなければなりません(民法915条)。

それぞれがどういった手続きなのか簡単に説明しますと、次のようになります。
単純承認とは、プラスの財産、マイナスの財産全てを相続する手続です。
限定承認とは、プラスの財産からマイナスの財産を引き、プラスが残った場合にのみ相続する手続です。この場合は、家庭裁判所へ申述手続きを取る必要があります。
相続放棄とは、プラスの財産、マイナスの財産全てを放棄する手続です。
この場合も、家庭裁判所へ申述手続きを取る必要があります。

単純承認、相続放棄のイメージ

限定承認のイメージ

 
マイナスの財産の方が多い場合には、特段の事情がない限り、相続の放棄手続きを取ることが通常です。
しかし、気をつけなければいけないのは、法定単純承認、というものです。
これは、民法921条で定められており、相続財産の一部を処分したり、相続放棄の手続をしなかったりすることによって、単純承認したものとみなされてしまうというものです。
具体的には、被相続人の預貯金を引き出して使ったり、他の相続人との間で遺産分割協議を始めたりすると、法定単純承認に該当します。
気づかぬうちにこういった行動を取ってしまうと、後から相続放棄を行うことはできなくなってしまいます。
そのため、もしかしたらマイナス財産の方が多いかもしれない、という時には、特に早期の調査が必要となります。
調査の結果、おおよその負債の額と相続財産の額が分かり負債が多い場合には、相続放棄の手続きをとります。
なお、相続放棄の手続きは弁護士にご相談ください。
関連記事:相続放棄は自分でも出来る?

各財産の具体的な調査方法は次のとおりです。
相続人や親族でも自力で取得できる資料がほとんどですが、被相続人の借金や財産が多岐に渡る場合は、期限切れとならないようスピード感をもって調べる必要が出てきます。

具体的な調査方法

(1)負債を調べる

相続が始まった場合に、もっとも最初にすべき事は負債を調べる事だと言っても過言ではありません。

負債は、故人の郵便物の中にある消費者金融などの督促状の発見や、銀行に対する照会でわかることがあります。
他にも、銀行の預金残高証明書や、定期的に引き落とされている金員がある故人の通帳に着目すると判明します。

借金・未払診療費・滞納している税金についても、故人の郵便物を丁寧に調べると分かるときがあります。
銀行や消費者金融・カード会社などの利用明細や、督促状が出てくる事があるためです。

他に、信用情報機関に情報開示請求をすることによって調査することもできます。これは、クレジットカードの情報を管理している機関に対して、故人の借入れ情報が無いか開示請求をする手続です。複数の情報機関に請求することで、借入れを洗い出すことができるのですが、手続は各機関によって異なりますし、必要な書類の準備も少しずつ異なってきます。

なお、病院の未払診療費の有無は、ご家族で把握されていることが比較的多いかと思います。もっとも、正確な金額については病院に問い合わせる必要があります。

滞納している税金関係については、市役所などに問い合わせることとなります。

(2)不動産の存在・評価

まずは故人の持ち物の中から不動産の「権利書」や「固定資産税の納付書」など、不動産に関する資料を探し出します。
例えば、固定資産税の納付書が見つかった場合、その記載をもとに、市役所で「名寄帳」を取り寄せる手続きを取ります。
これにより、被相続人が所有していた土地や建物を把握することができるのです。

その上で、法務局で手続きをします。
ここでは、土地や建物の権利関係が記載された「登記事項証明書」の取得や、不動産の「固定資産評価証明書」の取得手続きを行うこととなります。

不動産がいくらの価値を持つか、という査定評価も行います。
固定資産評価証明書を使う方法もありますが、複数の不動産会社に査定を依頼することもあります。
不動産の評価方法には様々なものがありますので、相続人の利害関係によってもめることが多いものといえます。

この後の遺産分割の際には、

  • 取引価格
  • 路線価
  • 固定資産税評価額
  • 地価公示価格

のいずれかから選んで評価を行い、取引価格で評価することが一般的です。

(3)銀行預金の調べ方

預貯金に関してもまずは故人の通帳・キャッシュカード・銀行のティッシュなどのグッズを探すことが必要です。
他に、郵便物や、日記、パソコンなどから情報が分かる時もあります。

その後、故人が利用していたと思われる銀行の窓口において死亡前後の取引履歴や死亡時の残高証明書を取得する必要があります。

全国にはたくさんの銀行がありますが、統一された窓口があるわけではありませんので、故人が銀行口座を有しているかどうか、有している場合はその残高がいくらかという点については、各金融機関に都度問い合わせる必要があります。
ここでも戸籍と身分証明書など、故人と相続人の関係を証する書類の提出を求められる場合がほとんどです。
また、関係者による照会には応じておらず、弁護士などによる手続きでないと照会しないと断る窓口もあります。その際には弁護士にご相談ください。

なお、通帳の記載などから、使途不明金などが出てきた場合についてはこちらで解説しておりますのでご覧ください。
関連記事:相続人の預金の使い込み(使途不明金問題)

(4)株・国債等を調べる

株券や、証券会社のノベルティグッズ、証券会社からの年間取引報告書などが見つかることがあります。
また、銀行口座に配当が振り込まれることで、故人が証券を所有していた事がわかるときもあります。
証券を持っているはずなのに、情報が得られない場合は、証券保管振替機構に問い合わせることもできます。開示請求を行うことで、保有している証券会社が判明するのです。

各証券会社の窓口で故人の株の保有数や種類を調べる場合には、それぞれ定めている方法によって請求を行う必要があります。その際にも、故人と相続人との関係を証する書類(戸籍・身分証など)を示すことを求められます。
 
代表弁護士 古賀尚子

4 終わりに

上記の相続財産や相続人の調査手続きについては、時間もかかりますし、たくさんの書類が必要となってきます。
また、特に次のケースですと自力での調査が難航することが多いです。

  • 相続財産に不動産が含まれており、評価額の決定が難しい
  • 相続財産が多岐に渡っている
  • 平日に市役所に行って手続を取る時間を取りにくい
  • 負債の方が多い可能性があり、相続放棄の期限までに時間が無い

こういった手続きには法的知識が必要で、慣れていないと上手に相続財産を探しきれないときもあります。また、調査をしているだけのつもりだったのに、思いもよらず、法定単純承認となってしまい、限定承認・相続放棄ができなくなってしまうケースもあります。

当事務所では財産の調査を別途10万円~(消費税別)で承っておりますので、お困りの方はぜひご相談ください。
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この記事を書いた弁護士 弁護士鈴木志野 この記事を書いた弁護士
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弁護士 鈴木 志野